学生が動画編集、デザイン、プログラミング、ネット販売などで個人事業主(フリーランス)になると、「開業届を出したら親の扶養から外れる?」「20歳になったら年金も自分で払う?」と不安になりがちです。結論からいうと、開業だけで扶養から外れません。ただし、親の健康保険、税法上の扶養、国民年金、アルバイト先の社会保険は、それぞれ別の基準で判定します。この記事では2026年7月10日時点の制度をもとに、学生として事業とアルバイトを両立する場合まで順番に整理します。
学生が個人事業主になると社会保険はどうなる?

最初に、開業後も何が続き、どの時点で切り替わるのかを確認しましょう。
開業届を出しただけでは親の扶養から外れない
個人で事業を始めても、それだけで会社の健康保険や厚生年金に加入するわけではありません。親が会社員などで、その健康保険の被扶養者になっている学生は、収入などの認定要件内なら扶養を継続できる可能性があります。
健康保険が確認するのは、開業届の有無よりも、今後の収入見込みと親に生計を維持されている実態です。一方、自分で法人を設立して役員報酬を受ける場合は、個人事業とは社会保険の扱いが異なるため、本記事の判断フローをそのまま使わず年金事務所などへ確認してください。
健康保険・税・年金・勤務先社保は別々に判定する
「扶養」という一言でまとめず、次の4つを分けることが重要です。
- 親の健康保険
被扶養者として医療保険に残れるかを、今後1年間の収入見込みなどで判定する - 税法上の扶養
親が扶養控除などを受けられるかを、暦年の合計所得金額で判定する - 20歳以降の年金
親の子は国民年金の第3号被保険者にはならず、別に加入・納付を考える - アルバイト先の社会保険
勤務時間などの条件を満たすと、学生本人が勤務先の健康保険・厚生年金に入る
同じ年に、健康保険では親の扶養に残り、税では特定親族特別控除になり、年金では学生納付特例を使うこともあります。ひとつの基準だけで全部を判断しないことが出発点です。
親の健康保険の扶養に残れる条件

学生の個人事業主がまず確認したいのは、親が加入する協会けんぽや健康保険組合の被扶養者認定です。
19歳以上23歳未満は年間収入150万円未満が基本
2025年10月1日以降、被保険者の配偶者を除く19歳以上23歳未満の被扶養者は、年間収入要件が150万円未満になりました。年齢は扶養認定日が属する年の12月31日時点で判定します。学生かどうかではなく年齢で適用される点にも注意が必要です。詳しい適用日は日本年金機構の19歳以上23歳未満の被扶養者認定案内で確認できます。
それ以外の子は原則として年間収入130万円未満です。生計維持の要件は、同居なら親の収入の2分の1未満が原則で、別居なら学生の収入が親からの仕送り額未満であることです。同居で2分の1以上でも、学生の収入が親の年間収入を上回らず、世帯の状況を総合的にみて親が生計維持の中心と認められれば、被扶養者になる場合があります。詳しくは日本年金機構の被扶養者手続き案内を確認し、最終判断は親の加入先へ問い合わせましょう。
事業とアルバイトの収入は今後1年の見込みで確認
健康保険は、前年の確定申告だけでなく、認定時点から今後1年間の年間収入見込みを見ます。個人事業の収入とアルバイト給与の両方がある場合は、健康保険のルールに沿って両方を確認します。
たとえば21歳で、健康保険上の事業収入が年間120万円、アルバイト給与が年間20万円の見込みなら合計140万円です。150万円未満という収入要件には収まりますが、親の収入との関係や経費の認定を含めて加入先の審査を受けます。税の事業所得だけでは判定できません。
必要経費の範囲は加入先の健康保険に確認する
自営業の年間収入は、年間総収入から健康保険上の経費を差し引いて確認されます。協会けんぽの被扶養者資格再確認FAQでは、差し引けるのは原材料費や仕入れ費など「その経費がなければ事業が成り立たない直接的経費」で、公租公課や宣伝費は差し引けないと案内しています。所得税の必要経費とは範囲が違う点に注意が必要です。
そのため「確定申告の所得が150万円未満だから扶養に残れる」とは断定できません。協会けんぽの被扶養者資格再確認FAQを参考にしつつ、親の勤務先を通じて、加入している健康保険の被扶養者認定基準と必要書類を確認しましょう。確定申告書、収支内訳書や青色申告決算書、売上・経費の内訳を求められる場合があります。
税法上の扶養は健康保険と別に判定

親の所得税に影響する扶養控除は、健康保険の150万円未満とは別の制度です。
2026年分は合計所得金額62万円以下が扶養控除の基本
2026年分の所得税では、扶養親族の所得要件は合計所得金額62万円以下です。給与収入だけなら給与所得控除を差し引くため、収入136万円以下が目安になります。ただし、この給与収入の換算は事業所得がない場合の話です。
税法上の扶養は、その年の1月1日から12月31日までの実績で判定します。健康保険のような「今後1年間の見込み」ではありません。国税庁の令和8年度税制改正案内によると、2026年分所得税の改正内容は2026年12月1日施行ですが、2026年分から適用されます。
19歳以上23歳未満には特定親族特別控除がある
年末時点で19歳以上23歳未満の子の合計所得金額が62万円を超えても、123万円以下なら、親は特定親族特別控除を受けられる可能性があります。控除額は子の所得に応じて段階的に変わります。
つまり、税法上の通常の扶養控除から外れた瞬間に、親の控除が必ずゼロになるわけではありません。ただし、親と生計を一にしていることなど別の要件もあるため、親の年末調整や確定申告では学生本人の所得見込みを正確に伝えましょう。
売上ではなく事業所得と給与所得を合計する
税の合計所得金額は、事業の売上ではなく、売上から必要経費などを差し引いた事業所得と、アルバイト給与から給与所得控除を差し引いた給与所得などを合計して求めます。
たとえば事業所得80万円だけなら、2026年分の62万円は超えますが、19歳以上23歳未満でほかの要件を満たせば特定親族特別控除の範囲に入り得ます。同じ80万円でも、健康保険では加入先独自の経費ルールで年間収入を計算するため、税と健康保険で結論が分かれることがあるのです。
健康保険の扶養を外れたら国民健康保険へ

収入見込みが基準以上になったら、扶養を外れる手続きと次の医療保険への加入が必要です。
勤務先の健康保険がなければ市区町村の国保に加入
アルバイト先などの健康保険に入らない学生が親の扶養を外れた場合は、原則として住所地の国民健康保険(国保)に加入します。親の勤務先へ被扶養者の削除を申し出たうえで、資格喪失日がわかる書類などを用意し、市区町村の窓口で手続きします。
扶養を外れたまま手続きを放置しても、医療保険の加入義務がなくなるわけではありません。あとから加入日までさかのぼって保険料が発生することもあるため、資格が変わったら早めに手続きすることが大切です。
国保には扶養がなく保険料は自治体・世帯で決まる
国保には会社の健康保険のような被扶養者の仕組みがありません。学生本人も一人の被保険者となり、前年所得、加入者数、自治体の料率などをもとに世帯の保険料が決まります。
保険料率や軽減制度は自治体と年度で変わるため、全国共通の金額では比較できません。学生本人の所得が少なくても、世帯の状況が軽減判定に影響することがあります。住所地の市区町村の国保窓口で試算と必要書類を確認してください。
親元を離れて通学する場合はマル学も確認する
親の世帯がもともと国保で、学生が進学のために別の市区町村へ住民票を移す場合は、修学中の被保険者の特例、いわゆるマル学が使えることがあります。該当すれば、転出後も親の世帯がある市区町村の国保に加入する扱いです。
これは「会社の健康保険の扶養を外れて新たに国保へ入る」話とは場面が違います。親も国保に加入している学生は、親の市区町村へ在学証明書などの必要書類を確認しましょう。
20歳以降の国民年金と学生納付特例

健康保険の扶養に残れるかどうかとは別に、日本国内に住む人は原則20歳から公的年金に加入します。
親の健康保険の扶養でも国民年金は別
厚生年金加入者に扶養される20歳以上60歳未満の配偶者は国民年金の第3号被保険者になれますが、子である学生は第3号にはなれません。親の健康保険の被扶養者であっても、20歳になれば国民年金の第1号被保険者として納付が必要です。
一方、アルバイト先の厚生年金に加入した学生は第2号被保険者になるため、国民年金保険料を別に納めません。まず勤務先の厚生年金に入っているかを確認します。
個人事業主の学生も所得基準内なら申請できる
納付が難しい学生には学生納付特例制度があります。日本年金機構の学生納付特例制度案内では、申請者本人の前年所得が「128万円+扶養親族等の数×38万円+社会保険料控除等」以下であることが所得基準です。家族の所得は問いません。
個人事業主だから対象外になるわけではなく、大学、大学院、短大、専門学校など対象校に在学し、本人の所得基準を満たせば申請できます。税の申告が済んでいないと審査できない場合があるため、所得が少なくても申告状況を確認し、マイナポータル、年金事務所または市区町村で手続きしましょう。
猶予期間は追納しなければ年金額に反映されない
学生納付特例は保険料の「免除」ではなく納付の猶予です。承認期間は老齢基礎年金の受給資格期間に算入されますが、追納しなければ将来の年金額には反映されません。
承認された期間は10年以内なら追納できます。一定期間を過ぎて追納すると加算額が付く場合もあります。未納のままにせず申請しておくことは、障害基礎年金や遺族基礎年金の納付要件にも関わるため、払えないときほど放置しないことが重要です。
アルバイトを兼業するときの社会保険

個人事業とアルバイトを両立する場合は、アルバイト先で本人が社会保険に入るかも確認します。
一般の学生は短時間労働者の適用拡大から除かれる
通常の労働者の所定労働時間・日数の4分の3未満で働く短時間労働者には、週の所定労働時間などによる社会保険の適用拡大があります。ただし、一般的な昼間学生は「学生でないこと」の要件を満たさないため、この短時間労働者の枠では原則として加入対象になりません。
休学中、定時制・通信制、卒業後も同じ勤務先で働く予定の人などは扱いが異なる場合があります。「学生だから絶対に社保へ入らない」と決めつけず、雇用契約と在学状況を勤務先へ伝えて確認してください。
4分の3基準を満たす学生は勤務先の社保に入る
学生でも、1週間の所定労働時間と1か月の所定労働日数が、同じ職場の通常の労働者の4分の3以上なら、一般の被保険者として勤務先の健康保険・厚生年金に加入します。この扱いは日本年金機構の学生と4分の3基準のQ&Aにも明記されています。この場合、親の健康保険の扶養から外れます。
加入後は保険料を勤務先と本人で負担し、給与から控除されます。20歳以上なら厚生年金に含まれるため、国民年金を別払いしたり学生納付特例を申請したりする必要はありません。
事業所得は勤務先の保険料計算に合算しない
アルバイト先で社会保険に加入した場合、保険料はその勤務先から受ける給与をもとに計算します。個人事業の売上や事業所得は合算しません。
ただし、親の健康保険の扶養に残れるかを審査する段階では、アルバイト給与と事業からの収入を確認します。「勤務先の加入判定」と「親の扶養の収入判定」で、事業収入の扱いが違うと覚えておきましょう。
学生の個人事業主向け判断フロー

最後に、制度を横断して確認する順番と、兼業ケースをまとめます。
4ステップで加入先を判定する
- 1.勤務先の社保を確認
アルバイト先で4分の3基準などを満たすなら、本人が健康保険・厚生年金に加入する - 2.親の健康保険を確認
勤務先社保がなければ、年齢別の年間収入要件と加入先独自の経費基準で扶養を判定する - 3.扶養を外れたら国保を確認
ほかの健康保険がなければ住所地の国保へ加入し、自治体で保険料を試算する - 4.20歳以上は年金を確認
厚生年金がなければ国民年金。納付が難しければ学生納付特例を申請する
これとは別に、親の年末調整・確定申告では学生本人の合計所得金額を伝えます。医療保険の加入先を決めたら終わりではない点に注意しましょう。
事業とアルバイトを兼業するケース例
21歳の大学生が、税法上の事業所得80万円を得て、親の健康保険の被扶養者になっているケースを考えます。税では2026年分の62万円を超えますが、123万円以下なら親が特定親族特別控除を受けられる可能性があります。健康保険では、税の80万円をそのまま使わず、加入先の経費基準で今後1年間の収入を計算し、150万円未満かを確認します。
さらにアルバイトを始めたら、親の扶養判定では給与見込みも確認します。一方、アルバイト先の社保加入は勤務時間・日数などの雇用条件で判定し、事業所得は保険料に合算しません。国民年金の学生納付特例は本人の前年所得で審査するため、同じ数字でも制度ごとに使い方が違うとわかります。
収入見込みが変わったら早めに申告する
事業の受注が急増した、継続案件が始まった、アルバイトの勤務時間が増えたなど、今後の収入見込みが変わったときは、親の勤務先と健康保険へ早めに相談します。扶養の削除が遅れると、資格をさかのぼって取り消され、医療費の返還や国保保険料の遡及負担が生じることがあります。
日頃から売上、必要経費、アルバイト給与を分けて記録し、年齢、勤務条件、今後1年の収入見込み、暦年の合計所得をそれぞれ確認できるようにしておきましょう。迷ったときは、親の健康保険、市区町村、年金事務所、税務署のうち該当制度の窓口へ確認すると、別制度の基準を混同せずに判断できます。
学生の個人事業主(フリーランス)は、開業だけで親の健康保険の扶養から外れるわけではありません。勤務先の社会保険、親の健康保険、国民健康保険、20歳以降の年金、税法上の扶養を別々に確認し、事業やアルバイトの収入見込みが変わった段階で早めに各窓口へ相談しましょう。
