個人事業主(フリーランス)は、雇用される労働者ではないため、雇用保険の対象外が原則です。取引先との業務委託契約が終わっても、会社員の離職と同じように基本手当を受け取れる制度ではありません。
一方、副業先で雇用契約を結んでいる場合や、業務委託という名称でも働き方の実態が労働者に当たる場合は扱いが変わります。会社員から独立する時期、従業員を雇う立場、仕事中のけがや廃業への備えも分けて考える必要があります。
雇用保険へ加入できる場面、退職後の給付、対象外のリスクを補う制度を順に整理します。
フリーランスは雇用保険の対象外が原則

雇用保険は、事業主に雇用され、一定の要件を満たす労働者を対象とする制度です。事業を営む本人は、自分自身を雇用する事業主と労働者の関係にならないため、開業届を提出しただけでは加入できません。
雇用される労働者を対象とする制度
厚生労働省は、雇用保険の適用事業に雇用される労働者を原則として被保険者としています。2026年8月時点の一般的な要件は、31日以上の雇用見込みがあり、週の所定労働時間が20時間以上であることです。
- 会社員、パート、アルバイトなど、事業主に雇用されて賃金を受ける人
- 雇用期間と週所定労働時間の要件を満たす人
- 加入要件を満たした時点で、本人の希望にかかわらず事業主が届け出る人
一方、仕事を受注し、成果や業務の対価として報酬を受ける個人事業主は、通常は事業主として扱われます。雇用契約がない場合は、自営部分だけでは加入対象外です。
出典:厚生労働省「雇用保険の加入手続はきちんとなされていますか!」
健康保険や年金とは加入の基準が異なる
雇用保険と労災保険を合わせて労働保険と呼びます。健康保険や年金も広い意味では社会保険に含まれますが、加入対象、保険料、給付、窓口は同じではありません。
個人事業主本人の医療保険と年金は、国民健康保険と国民年金などが中心です。雇用保険へ加入できないことは、医療保険や年金へ加入しなくてよいという意味ではありません。社会保険全体の違いは、個人事業主(フリーランス)の社会保険で確認できます。
加入対象になる働き方を見分ける

フリーランスとして事業を持っていても、別の会社に雇用される部分まで雇用保険の対象外になるわけではありません。また、契約書に「業務委託」と書かれていても、実際の働き方が労働者に当たる可能性があります。
副業先で雇用される部分は別に判定する
事業所得を得ながら会社で働く場合、雇用保険は会社に雇用される部分について判定します。2026年8月時点では、その雇用関係が31日以上続く見込みで、週所定労働時間20時間以上などの要件を満たせば、事業を持つ人でも加入対象になり得ます。
- 自営の仕事
業務委託の受注と事業収入は、雇用保険の加入関係を作らない - 雇用される仕事
雇用契約、雇用見込み、週所定労働時間を確認する
雇用保険の週所定労働時間要件は、法改正により2028年10月1日から10時間以上へ変更予定です。これは雇用される労働者の適用拡大であり、個人事業主本人が任意加入できる改正ではありません。
契約名ではなく働き方の実態で判断する
厚生労働省は、業務委託や請負として契約していても、働き方の実態から労働者と判断されれば労働法規の保護対象になり得ると案内しています。契約書の名称だけでは結論が出ません。
- 仕事を断る自由が実際にあるか
- 仕事の進め方、時間、場所について具体的な指揮命令を受けているか
- 報酬が成果物の対価か、働いた時間や労務の対価か
- 他の人へ仕事を代替させられるか
- 機材や経費を誰が負担しているか
これらを総合して判断します。雇用に近い実態があるのに事業主が届出をしていない疑いがある場合は、契約書、勤務記録、指示の記録、報酬資料をそろえ、所在地を管轄するハローワークへ相談できます。
退職後の基本手当と独立の時期を確認する

会社員時代に雇用保険へ加入していても、退職後に必ず基本手当を受け取れるわけではありません。求職中なのか、独立準備に専念しているのか、すでに事業を営んでいるのかで扱いが変わります。
基本手当は求職中の失業状態で受ける
基本手当は、原則として離職前2年間に被保険者期間が12か月以上あり、就職する意思と能力があり、積極的に求職している失業状態の人が対象です。倒産や解雇などでは別の要件があるため、離職理由と被保険者期間は離職票で確認します。
自営業を営んでいる人や、事業の準備に専念してすぐ就職する状態にない人は、原則として失業状態に当たりません。短時間の仕事や準備行為を行った日も、ハローワークへ事実どおり申告することが必要です。
出典:厚生労働省「Q&A~労働者の皆様へ(基本手当、再就職手当)」
独立後に使える受給期間の特例がある
この特例は、雇用保険の受給資格があり、事業の実施期間が30日以上で、その事業について就業手当または再就職手当を受けていないことなど、公式の6要件をすべて満たす場合に申請できます。
離職後に事業を開始した人、事業へ専念し始めた人、事業の準備に専念し始めた人には、事業期間を基本手当の受給期間へ算入しない特例があります。本来の受給期間1年間に、最大3年間を算入しない期間として加えられる仕組みです。
申請期限は、事業を開始・専念・準備し始めた日の翌日から2か月以内です。特例は独立中に基本手当を支給する制度ではなく、事業を休廃止して再び求職するときに、残っている受給資格を利用できる期間を保つ制度です。
再就職手当も事業開始が対象になり得ますが、待期、支給残日数、事業の継続性など個別要件があります。開始前にハローワークへ相談すると、基本手当、受給期間特例、再就職手当のどれを検討するか整理できます。
全要件と提出書類は、ハローワーク公式リーフレット「離職後に事業を開始等した場合の雇用保険受給期間の特例」で確認できます。
雇用保険に代わる保障を目的別に整える

雇用保険の代わりになる一つの万能制度はありません。受注減、仕事中のけが、病気による休業、廃業では原因と必要な資金が異なるため、リスクごとに備えを組み合わせることが基本です。
仕事中のけがや病気は労災特別加入で備える
2024年11月1日から、企業などから業務委託を受けるフリーランスは、業種や職種を問わず労災保険の特別加入対象になりました。仕事中や通勤中のけが、病気、障害、死亡などが補償対象です。
労災特別加入は、失業や受注減を補償する制度ではありません。加入対象、給付基礎日額、保険料、対象業務は特別加入団体で確認します。詳しい条件は、労災保険の特別加入で確認できます。
出典:厚生労働省「フリーランスが労災保険の特別加入対象となりました」
受注減・休業・廃業は別々に備える
雇用保険の基本手当は、取引先からの発注が減ったときの売上を補うものではありません。事業を続けながら受注減に備える資金、病気やけがで働けない期間の補償、廃業時の資金は分けて準備します。
- 受注減や入金遅れ
固定費と生活費を分け、当面の運転資金と生活予備費を確保する - 病気やけがによる休業
公的給付の対象範囲を確認し、必要に応じて所得補償保険などの免責期間・対象外事由を比較する - 廃業や引退
小規模企業共済など、請求事由と受取条件が決まった積立制度を検討する
小規模企業共済は、個人事業主の廃業など所定の請求事由で共済金を受け取る制度です。短期の失業手当ではなく、任意解約では受取額が掛金合計を下回る場合もあります。契約条件と資金を使う時期を確認して選ぶ必要があります。
出典:中小機構「小規模企業共済とは」/小規模企業共済「よくあるご質問」
従業員を雇うと事業主の手続きが生じる

個人事業主本人が雇用保険の対象外でも、従業員を雇うと立場が変わります。労働者を雇用する事業は、農林水産業の一部を除いて業種や規模を問わず原則として雇用保険の適用事業です。
対象従業員の加入は事業主が届ける
2026年8月時点では、31日以上の雇用見込みと週所定労働時間20時間以上などの要件を満たす従業員について、事業主が加入手続きを行います。本人が加入を希望しない場合でも、要件を満たせば加入が必要です。
初めて対象従業員を雇う場合は、労働保険の保険関係成立手続を行い、事業所設置届と雇用保険被保険者資格取得届を管轄のハローワークへ提出します。健康保険・厚生年金の手続きとは提出先や適用要件が異なります。
本人の非加入と従業員の加入を混同しない
個人事業主本人は事業主として雇用保険へ加入しませんが、雇った従業員には雇用保険が適用されます。本人と従業員を別の行で管理すると、届出漏れを防ぎやすくなります。
- 本人は事業主として雇用保険の対象外
- 従業員は雇用見込みと週所定労働時間などで判定
- 労災保険は雇用保険と対象範囲が異なる
- 健康保険・厚生年金は別の適用要件で判定
従業員の健康保険・厚生年金を含む全体像は、個人事業主が従業員1人を雇うときの社会保険で確認できます。
迷ったときは働き方と窓口を確認する

加入可否は「フリーランス」という呼び名だけでは決まりません。契約、働き方、勤務時間、離職後の活動を分け、それぞれの窓口へ事実を伝えると判断しやすくなります。
契約と働き方の資料をそろえる
雇用される副業や労働者性を確認するときは、次の資料をそろえます。
- 雇用契約書、業務委託契約書、更新条件
- 勤務日、勤務時間、作業場所の記録
- 仕事の指示、承認、報告方法が分かる記録
- 給与明細、請求書、入金記録
- 仕事を断る自由や代替できる人の有無が分かる資料
雇用保険の加入記録は、本人がハローワークへ照会できます。実態が雇用に近いか判断が難しい場合は、資料を見せたうえで管轄ハローワークや労働基準監督署へ相談します。
離職と開業の時系列をハローワークへ伝える
会社を退職して独立する場合は、離職日、求職申込み、開業準備を始めた日、開業日、実際に仕事をした日を時系列で整理します。開業届の日付だけで自己判断しないことが重要です。
基本手当を受けながら短時間の仕事をした場合も、働いた日と収入を失業認定で申告します。事業開始後の受給期間特例を検討する場合は、開始・専念・準備の翌日から2か月以内という申請期限に注意が必要です。
よくある質問
フリーランスは希望すれば雇用保険へ任意加入できますか?
個人事業主本人が任意に加入する制度はありません。別の会社に雇用される部分が適用要件を満たす場合は、その雇用関係について加入対象になります。
業務委託をしながら基本手当を受けられますか?
仕事の時間、収入、事業へ専念しているかによって失業認定が変わります。契約を結んだ事実や働いた日を申告し、受給可否は管轄ハローワークで確認します。
労災保険へ特別加入すれば失業も補償されますか?
補償されません。労災保険特別加入は仕事中や通勤中のけが・病気などが対象で、受注減や契約終了は別の備えが必要です。
2028年の改正で個人事業主も加入できますか?
改正は雇用される労働者の週所定労働時間要件を10時間以上へ広げるものです。自営のみの個人事業主が加入対象になる改正ではありません。
雇用保険の加入可否と備えを整理する

フリーランスの雇用保険は、自営部分は対象外、雇用される部分は別判定と整理すると分かりやすくなります。会社員から独立する場合は、基本手当を受ける失業状態と、事業開始後の受給期間特例を混同しないことが重要です。
- 個人事業主本人は雇用保険の対象外が原則
- 副業先で雇用される部分は雇用見込みと週所定労働時間などで判定
- 業務委託でも働き方の実態が労働者なら扱いが変わる可能性がある
- 独立準備や事業開始は基本手当の失業認定へ影響する
- 労災特別加入、所得補償、予備費、小規模企業共済は目的が異なる
- 従業員を雇う個人事業主には事業主としての届出義務が生じる
契約書、勤務記録、離職から開業までの日付をそろえ、雇用保険はハローワーク、労働者性はハローワークや労働基準監督署、代替保障は各制度の公式窓口で確認すると、加入可否と必要な備えを分けて判断できます。
自営部分と雇用部分を分け、独立前後の時系列とリスク別の保障を確認することが、雇用保険の加入可否と備えを正しく整理する基礎になります。
