マイクロ法人を併用する個人事業主(フリーランス)の社会保険料は、個人事業の売上や利益からは計算しません。法人が支給する役員報酬を標準報酬月額へ当てはめることが出発点です。
計算の流れは、次の5段階です。
- 1. 役員報酬を確認
毎月の報酬と、継続して支給する現物報酬を整理する - 2. 標準報酬月額を判定
健康保険と厚生年金の等級表を別々に見る - 3. 公式表で保険料を確認
法人所在地、対象月、年齢に合う行を使う - 4. 本人負担と会社負担を分ける
給与控除額と法人が負担する額を混ぜない - 5. 月額を年額へ集計
条件が同じ月だけをまとめ、変更月で期間を分ける
結論として、給与から引かれる本人負担だけでは、法人から出ていく総額は分かりません。会社負担と事業主負担の拠出金も加える必要があります。2026年8月時点の制度を前提に、最低等級の違いと再計算できる手順を示します。
社会保険料計算は会社負担まで合算

最初に、何を「社会保険料」として比べるかを決めます。代表者の手取りを知りたい場合と、法人の資金繰りを知りたい場合では、見る金額が異なるためです。
本人負担と会社負担を分ける
健康保険料、介護保険料、厚生年金保険料などは、原則として本人と会社で分担します。会社は本人負担分を役員報酬から控除し、会社負担分と合わせて納付します。ひとりで運営するマイクロ法人でも、代表者個人と法人は別の負担主体です。
- 給与控除額
役員報酬から差し引かれる本人負担分 - 会社負担額
法人が費用として負担する健康保険・厚生年金などの分 - 法人からの納付額
本人負担分と会社負担分に、事業主のみが負担する拠出金を加えた額
手取りを確認するなら、給与控除額を見ます。法人の資金繰りを確認するなら、会社負担を含む納付総額を見ます。「月額はいくらか」を比べるときは、本人分と法人全体の総額のどちらかを明記します。
個人事業の所得は計算基礎にしない
国民健康保険料は、個人事業側の前年所得などを基に決まります。一方、法人の健康保険・厚生年金は役員報酬を基にした標準報酬月額で計算します。個人事業の利益が増えただけでは、マイクロ法人の標準報酬月額は上がりません。
標準報酬月額とは、毎月の報酬を幅のある等級に区分した計算用の金額です。役員報酬と標準報酬月額は、常に同額とは限りません。
ただし、保険料を計算できても、加入資格や役員報酬の妥当性まで確定するわけではありません。計算結果と加入可否は別の確認事項です。
試算前にそろえる情報

同じ役員報酬でも、加入先、都道府県、年度、年齢によって保険料が変わります。先に条件をそろえると、別地域や別年度の表を使うミスを防げます。
加入先・所在地・対象月を確認する
協会けんぽの健康保険料率は、都道府県支部ごとに異なります。健康保険組合へ加入する場合は、その組合の料率と規約を使います。法人所在地に対応する加入先の当年度表を準備します。
- 加入する健康保険
協会けんぽか健康保険組合かを確認する - 法人所在地
協会けんぽなら該当する都道府県支部を特定する - 計算対象月
料率変更月をまたぐ場合は旧表と新表を分ける
協会けんぽでは都道府県毎の保険料額表が公開されています。表の地域と適用年月を、両方とも一致させます。
役員報酬・年齢・賞与を確認する
報酬月額には、基本となる役員報酬だけでなく、継続して支給する金銭や現物の報酬が含まれる場合があります。年3回以下の賞与は、標準賞与額を使って月額報酬とは別に保険料を計算します。年4回以上支給する賞与は、原則として報酬に含め、標準報酬月額の計算対象にします。
- 役員報酬の月額と支給開始月
- 代表者の年齢と40歳到達月、65歳到達月
- 健康保険の被扶養者として認定される家族の有無
- 賞与の有無
- 資格取得月と資格喪失月
40歳から64歳までの健康保険加入者には、原則として介護保険料が加わります。被扶養者の人数分だけ保険料を単純に足す仕組みではありません。ただし、扶養認定の要件確認は必要です。
健康保険と厚生年金の計算式

計算では、健康保険と厚生年金を別々の等級表へ当てはめます。健康保険と厚生年金では等級の範囲が異なるため、同じ報酬でも別々に標準報酬月額を確認します。
健康保険料と介護保険料を求める
健康保険の計算基礎は、健康保険用の標準報酬月額です。協会けんぽの保険料額表で、報酬月額が入る行を探します。
- 健康保険料総額=健康保険の標準報酬月額×当年度の健康保険料率
- 本人負担の目安=保険料額表の折半額
- 会社負担の目安=保険料総額−本人負担額
40歳から64歳までの被保険者は、介護保険第2号被保険者に該当する欄を使います。40歳未満の例へ介護保険料を加えないようにします。
掛け算で求めた折半額は、端数処理によって公式表と一致しない場合があります。給与計算では、公式表の折半額と端数処理を優先します。
厚生年金保険料を求める
厚生年金の計算基礎は、厚生年金用の標準報酬月額です。日本年金機構の保険料額表または協会けんぽの表で、厚生年金の該当行を確認します。
厚生年金の標準報酬月額は健康保険と別に判定します。健康保険の標準報酬月額や折半額を、そのまま厚生年金へ流用してはいけません。
厚生年金も、表の全額が本人分と会社分の合計です。本人負担だけを知る場合は折半額を見ます。法人全体の支出を知る場合は、本人分と会社分の両方を集計します。
支援金と拠出金を分ける
2026年度から、医療保険料と合わせて負担する子ども・子育て支援金が始まりました。被用者保険では、本人と会社が基本的に半分ずつ負担します。
一方、従来からある子ども・子育て拠出金は、厚生年金の標準報酬月額・標準賞与額を基に事業主が全額を負担します。名称は似ていますが、負担者と計算欄が異なります。
健康保険、介護保険、厚生年金、支援金、拠出金を別々の行に記録します。内訳を分けておけば、同じ項目を二重に足すミスを防げます。
最低等級のシミュレーション

最低水準を試算するときも、一つの固定額では計算できません。最低等級に収まる報酬であっても、健康保険と厚生年金の計算基礎が異なり、地域・年度・年齢で総額が変わります。
健康保険と年金の最低等級は異なる
基準時点は2026年8月です。現行の標準報酬月額表では、健康保険の最低等級は5万8,000円、厚生年金の最低等級は8万8,000円です。低い役員報酬が両方の最低等級に入る場合、健康保険は5万8,000円、厚生年金は8万8,000円をそれぞれの計算基礎にします。
この差は、健康保険と厚生年金で等級表が別だから生じます。役員報酬へ同じ基準額を二重に使う話ではありません。また、役員報酬を5万8,000円や8万8,000円に設定するという意味でもありません。
標準報酬月額表は改定される可能性があります。試算する月に適用される公式表で、報酬月額の範囲と最低等級を確認します。
2026年8月・東京支部の最低等級試算
2026年8月時点の協会けんぽ東京支部を例に、最低等級の月額を試算します。入力条件は次のとおりです。
- 代表者は40歳未満
- 協会けんぽ東京支部へ加入
- 賞与なし
- 報酬月額は健康保険と厚生年金の両方で最低等級に該当
- この条件が12か月変わらないものとして年額換算
使う標準報酬月額は、健康保険5万8,000円と厚生年金8万8,000円です。令和8年度の東京支部保険料額表と日本年金機構の拠出金率から、次の金額を使います。
- 健康保険
全額5,713円、表の折半額2,856.5円 - 子ども・子育て支援金
全額133.4円、表の折半額66.7円 - 厚生年金
全額16,104円、表の折半額8,052円 - 子ども・子育て拠出金
8万8,000円×0.36%=316.8円。会社が全額を負担
本人負担は、健康保険、支援金、厚生年金の折半額を合計します。健康保険と支援金は2,856.5円+66.7円=2,923.2円で、給与から控除する際の端数処理後は2,923円です。これに厚生年金8,052円を加えるため、本人負担月額は1万975円になります。
法人からの納付額は、制度ごとに円未満を処理してから足します。健康保険と支援金は5,713円+133.4円=5,846.4円から5,846円、厚生年金は1万6,104円、拠出金は316.8円から316円です。したがって、5,846円+1万6,104円+316円=月額2万2,266円です。すべての小数を先に合算してから一度だけ丸める計算ではありません。
会社負担額(拠出金込み)は、法人からの納付総額から本人控除額を引きます。2万2,266円−1万975円=月額1万1,291円です。
- 本人負担:月額1万975円、年額13万1,700円
- 会社負担額(拠出金込み):月額1万1,291円、年額13万5,492円
- 法人からの納付総額:月額2万2,266円、年額26万7,192円
この年額は、2026年8月の条件が12か月続くと仮定した単純換算です。介護保険料は40歳未満のため含みません。賞与保険料、法人維持費、税金も含みません。
公式表には円未満の折半額があります。給与控除や納入告知書では、制度ごとに端数処理が行われるため、人数や特約によって計算表との差が生じる場合があります。最終額は公式表と納入告知書で確認します。
月額から年額へ換算する
1年間ずっと等級と料率が同じなら、月額に12か月を掛けると概算年額になります。上の例では、端数処理後の月額を12倍しています。
- 本人負担年額=本人負担月額×12か月
- 会社負担年額=会社負担月額×12か月
- 法人からの年間納付総額=本人負担年額+会社負担年額
年度途中で料率改定、資格取得、40歳到達、役員報酬変更がある場合は、期間ごとに月額を分けて合計します。年3回以下の賞与を支給する場合は、標準賞与額に対する保険料を別に加えます。年4回以上支給する場合は、原則として標準報酬月額の対象です。
役員報酬別に比較する方法

役員報酬を変えた場合は、報酬額へ料率を直接掛けて比較しません。各金額がどの標準報酬月額の等級に入るかで比較します。
公式表の行を報酬候補ごとに拾う
候補となる役員報酬ごとに、健康保険と厚生年金の該当行を記録します。同じ等級の範囲内なら、役員報酬が変わっても保険料が変わらない場合があります。等級の境界をまたぐと、標準報酬月額が変わります。
- 役員報酬候補
比較する月額を同じ表に並べる - 健康保険等級
各候補の報酬月額が入る行と折半額を記録する - 厚生年金等級
健康保険とは別に、該当行と折半額を記録する - 本人負担
給与から控除する月額と年額を記録する - 会社負担額(拠出金込み)
各保険料の会社分と事業主だけの拠出金を加える
本人負担と会社負担額(拠出金込み)を並列表示すると、資金繰りへの影響を判断しやすくなります。法人からの納付総額は、この2項目を合算した別の金額として示します。
役員報酬変更は反映月も確認する
役員報酬を変えても、標準報酬月額が同じ月から変わるとは限りません。定時決定、随時改定、資格取得時決定など、変更理由と時期によって反映月が異なります。
また、税務上の役員給与には、支給時期や変更時期のルールがあります。社会保険の等級変更と税務上の役員給与を分け、変更前に年金事務所や税理士などへ確認します。
最低額だけで判断しない注意点

最低等級で試算できても、マイクロ法人の設立や維持が有利だとは限りません。保険料以外の支出と、保障・給付への影響を同じ期間で比較します。
役員報酬ゼロは加入資格を個別確認する
役員報酬がない場合や、報酬から本人負担分を控除できないほど低い場合は、最低等級へ機械的に当てはめるだけでは判断できません。常用的な使用関係や報酬の実態などにより、被保険者資格が個別に判断されます。
「役員報酬をゼロにすれば保険料もゼロ」とは断定できません。設立前や報酬決定前に、管轄の年金事務所へ加入可否と必要書類を確認します。
法人維持費と将来給付を別に比べる
社会保険料の差額だけでなく、法人住民税、記帳・決算、登記、専門家報酬などの維持費が発生します。個人事業と法人の資金を分け、役員報酬を継続して支給できるかも確認します。
低い標準報酬月額は、当面の保険料を抑える方向に働きます。一方で、将来の老齢厚生年金や、標準報酬月額を基礎にする給付額にも影響します。短期の負担と長期の保障を分けて試算する必要があります。
社会保険料計算の確認手順

最後に、計算漏れを防ぐ順番を確認します。入力条件、公式表、本人・会社の負担区分を順番に照合すると再計算しやすくなります。
7ステップで月額と年額を確定する
- 1. 加入先を確定
協会けんぽか健康保険組合かを確認する - 2. 対象表を取得
法人所在地と計算対象年月に合う公式保険料額表を開く - 3. 報酬月額を整理
役員報酬、現物報酬、賞与、資格取得月を確認する - 4. 等級を判定
健康保険と厚生年金を別々の標準報酬月額へ当てはめる - 5. 年齢を反映
40歳から64歳までの介護保険料と到達月を確認する - 6. 負担を分ける
本人負担、会社負担、事業主のみの拠出金を別行にする - 7. 年額へ集計
料率変更、報酬変更、賞与がある期間を分けて合計する
計算後は、給与明細の控除額、法人の納入告知額、会計帳簿の法定福利費を照合します。差があれば、標準報酬月額、適用年月、介護保険の該当、端数処理、賞与の順に確認します。
マイクロ法人の社会保険料計算で比較すべき金額は、最新の公式表で再現できる総額です。役員報酬から標準報酬月額を判定し、本人負担と会社負担を分けて年額へ集計すれば、最低水準と法人の資金負担を同じ基準で確認できます。
役員報酬を健康保険と厚生年金の等級へ別々に当てはめ、本人負担と会社負担を分けることで、マイクロ法人の社会保険料を再計算できる形で確認できます。
