国民年金や国民健康保険を納める個人事業主(フリーランス)は、帳簿と確定申告書で社会保険料の扱いを分けます。本人分は必要経費にできませんが、その年に実際に支払った対象保険料は、確定申告で社会保険料控除として所得から差し引けます。
判断の軸は、誰の保険料を、誰が、どのお金から支払ったかです。本人分の事業主貸、従業員分の法定福利費と預り金、控除額の集計、申告書、証明書までを同じ軸で確認すると、経費との二重計上や控除漏れを防げます。
本人分は経費ではなく社会保険料控除

個人事業主本人の国民年金保険料や国民健康保険料は、事業そのものに必要な支出ではなく、事業主個人にかかる支出です。そのため、事業所得の必要経費には含めません。
経費にできないことと、税金の計算で差し引けないことは別です。本人分は帳簿上の経費ではなく、確定申告書の所得控除で処理します。帳簿では経費にせず、申告書で控除するという役割分担です。
本人分として支払う主な対象は次のとおりです。
- 国民年金保険料
- 国民健康保険料または国民健康保険税
- 国民年金基金の掛金
- 後期高齢者医療保険料や介護保険料
本人分には、家賃や通信費のような家事按分も使いません。事業で働く時間や売上割合を掛けて、一部だけを経費にする処理もできません。
社会保険料そのものの負担額は「個人事業主(フリーランス)の社会保険料はいくらか」、納付時期と方法は「社会保険料の納期と払い方」、保険料の試算は「社会保険料の計算とシミュレーション」で確認できます。C41で扱うのは、支払った後の経費・仕訳・所得控除です。
勘定科目と仕訳は支払口座で決まる

本人分の社会保険料は、生活用資金か事業用資金かで記帳方法を分けます。どちらから支払っても必要経費にはなりません。
生活用資金で払った場合は仕訳不要
生活用の口座、現金、クレジットカードから支払った場合は、事業の帳簿に仕訳しません。事業用資金が動いていないためです。
仕訳がなくても、確定申告用の集計資料は必要です。納付書、口座振替記録、カード明細、自治体の納付額通知などを保管し、その年に実際に支払った額を確認できるようにします。
事業用資金で払った場合は事業主貸
事業用口座や事業用現金から支払った場合は、事業主貸で記帳します。事業主貸は、事業のお金を事業主の個人的な支出に使ったことを表す勘定科目で、損益計算書の必要経費には入りません。
- 借方
事業主貸 ○○円 - 貸方
普通預金または現金 ○○円 - 摘要
国民年金保険料、国民健康保険料など種類と対象時期を記録
国民年金保険料は毎年度改定されるため、固定額を仕訳例に使わず、実際の引落額や納付額をそのまま記帳します。
事業主貸には生活費の引き出しなども含まれます。事業主貸の年間合計を控除額にせず、摘要から社会保険料だけを抽出し、納付記録や控除証明書と照合します。
従業員・専従者分は負担者で分ける

従業員や専従者に関する社会保険料は、事業主負担分・本人負担分・個人として払う保険料を分けます。
従業員の事業主負担分は法定福利費
健康保険、厚生年金保険、労働保険などについて事業主が法令上負担する分は、法定福利費として必要経費になります。個人事業主本人の国民年金や国民健康保険とは性質が異なります。
- 事業主負担分
法定福利費として必要経費にする - 従業員本人負担分
給与から預かった時点では預り金とし、納付時に相殺する
納付書の総額をすべて法定福利費にすると、従業員本人から預かった分まで必要経費へ含まれます。給与計算の預り金残高と納付額を照合し、事業主負担分だけが法定福利費として残るようにします。
専従者本人の国保・国民年金は経費にしない
青色事業専従者給与を支払っていても、専従者本人の国民年金や国民健康保険料は、専従者給与や法定福利費には含めません。専従者給与の必要経費と、個人にかかる社会保険料の所得控除は別の処理です。
事業所が社会保険の適用を受け、専従者が被保険者として加入する場合は、従業員と同様に事業主負担分と本人負担分を分けます。一方、専従者が個人として払う国民年金や国民健康保険料は、実際に支払った人の社会保険料控除で判断します。
社会保険料控除の対象と計算

社会保険料控除は、その年に本人または生計を一にする配偶者その他の親族のために支払った対象保険料を所得から差し引く所得控除です。その年に実際に支払った対象額の全額が基本で、未納分は含めません。
「いくら控除できるか」は、保険料の月額を固定して計算するのではなく、納付記録と証明書を種類ごとに合計します。国民年金保険料は毎年度改定され、国民健康保険料は自治体や所得などで異なるためです。
- 国民年金・国民健康保険
その年に実際に支払った額を集計する - 会社員だった期間の社会保険料
年の途中で独立した場合は源泉徴収票の社会保険料等の金額も確認する - 前納・追納した国民年金
控除証明書に記載された対象額と適用年を確認する
社会保険料控除は税額から保険料を直接差し引く制度ではありません。所得税を計算する前の所得から控除額を差し引きます。
他の所得や所得控除を考慮しない単純例として、事業所得が400万円、社会保険料控除が60万円なら、所得税の課税所得を求める途中の金額は「400万円-60万円=340万円」です。実際の課税所得は、基礎控除など他の所得控除や所得状況も反映して計算します。
社会保険料控除と似ていても、記入欄が異なる支出があります。
- iDeCoと小規模企業共済の掛金は小規模企業共済等掛金控除
- 民間の生命保険・介護医療保険・個人年金保険は生命保険料控除
- 地震保険料は地震保険料控除
- 事業用の損害保険料は、事業との関係に応じて必要経費を検討
所得税上の社会保険料控除と住民税の違い、確定申告後の反映時期、翌年負担は「社会保険と住民税の違い」の担当範囲です。
確定申告書の書き方と証明書

社会保険料控除は、紙の確定申告書では第二表の内訳と第一表の合計を対応させます。e-Taxや確定申告書等作成コーナーでは、画面案内に従って保険料の種類と支払額を入力します。
第二表に種類別の内訳を記入
第二表には、国民年金、国民健康保険、国民年金基金などの保険料の種類と支払額を記入します。年の途中で独立した場合は、源泉徴収票に記載された社会保険料と、独立後に自分で納めた保険料の両方を確認します。
第一表に控除額の合計を記入
第一表の社会保険料控除欄には、第二表で整理した対象額の合計を記入します。第一表と第二表の金額が一致しない場合は、転記漏れや重複集計がないかを支払資料まで戻って確認します。
証明書の要否を保険料別に確認
証明書や支払資料の扱いは保険料の種類で異なります。
- 国民年金保険料
日本年金機構の社会保険料控除証明書または領収証書で確認する - 国民年金基金の掛金
基金が発行する控除証明書で確認する - 国民健康保険料・国民健康保険税
自治体の納付額通知、領収書、口座記録などで年間支払額を確認する
国民年金の控除証明書は、納付した時期に応じた日本年金機構の発送予定を確認します。毎年同じ日付と決めつけず、申告する年分の案内を使います。
e-Taxでは、証明書データの送信や所定事項の入力により添付を省略できる場合があります。マイナポータル連携を使う場合も、取り込まれた保険料の種類、対象年、金額を納付記録と照合します。添付を省略した書類は、税務署から提示や提出を求められる場合に備えて保管します。
家族分・前納分・白色申告の扱い

社会保険料控除は、保険料の名義だけでなく実際に支払った人で判断します。
家族分は実際の支払者が控除
生計を一にする配偶者その他の親族の社会保険料を負担した場合は、支払った人の社会保険料控除に含められます。配偶者や専従者の名義でも、誰の口座や現金から支払ったかを確認します。
家族本人の年金から介護保険料などが特別徴収されている場合は、その家族本人が支払った扱いです。別の家族が自由に控除先を選ぶことはできません。
扶養に入れるかの収入判定では、必要経費として認める範囲が保険者によって異なる場合があります。協会けんぽを含む扶養可否の判断は「個人事業主(フリーランス)の社会保険扶養」で確認し、C41の所得税上の必要経費と混同しません。
前納と追納は控除する年を確認
国民年金保険料を2年分前納した場合は、支払った年に全額を控除する方法と、各年分に分けて控除する方法があります。控除証明書と選んだ方法を一致させます。
免除や猶予を受けた期間の国民年金保険料を後から追納した場合は、実際に支払った年の社会保険料控除として扱います。前納・追納とも、対象年と金額を控除証明書で確認します。
白色申告でも社会保険料控除は同じ
白色申告でも、本人分の社会保険料は必要経費ではなく、確定申告書の社会保険料控除で扱います。青色申告と白色申告で帳簿や申告書類は異なりますが、本人分を経費にせず、実際に支払った対象額を所得控除へ反映する基本は同じです。
白色申告の帳簿へ本人分を経費として入れず、生活用資金なら仕訳対象外、事業用資金なら事業主貸に相当する事業主勘定として区分します。申告時は帳簿の経費額ではなく、納付記録と証明書から控除額を集計します。
間違いを防ぐ確認手順

社会保険料の税務処理は、帳簿、支払資料、確定申告書の順に照合します。
- 帳簿を確認
本人分は仕訳なしか事業主貸、従業員の事業主負担分は法定福利費、本人負担分は預り金になっているか - 支払資料を確認
誰の保険料を誰が支払い、その年にいくら納付したか - 申告書を確認
第二表の内訳と第一表の合計が一致し、証明書と納付記録に対応しているか
特に多い誤りは次のとおりです。
- 本人分を必要経費または法定福利費にする
- 本人分を経費と所得控除の両方へ入れる
- 事業主貸の全額を社会保険料控除へ転記する
- 未納分を控除額に含める
- 従業員本人負担分まで法定福利費にする
- 家族分の控除を名義だけで判断する
- 第一表と第二表の金額を照合しない
事業用口座から払った本人分は経費ですか?
経費ではありません。事業主貸/普通預金で記帳し、実際の支払額を確定申告の社会保険料控除へ含めます。
国民健康保険料は証明書がなくても申告できますか?
国民年金の控除証明書とは扱いが異なります。自治体の納付額通知、領収書、口座振替記録などで、その年に実際に支払った額を確認して申告します。
専従者の国民年金を法定福利費にできますか?
専従者が個人として払う国民年金保険料は法定福利費にしません。実際に支払った本人または生計を一にする家族の社会保険料控除で判断します。
社会保険料の税務処理は、本人分の経費計上を避けることと、実際の支払額を所得控除へ反映することが基本です。従業員分、専従者分、家族分は負担者と支払記録で分けると、二重計上と控除漏れを防げます。
個人事業主の社会保険料控除は、対象者、支払者、支払元をそろえて確認すると、帳簿上の仕訳と確定申告上の所得控除を一つの流れで整理できます。個別事情がある場合は、申告年分の公的な最新情報と支払資料に基づく確認が必要です。
