飲食店を経営する個人事業主(フリーランス)の社会保険は、オーナー本人と従業員で答えが異なります。個人経営の飲食店は、2026年7月時点では健康保険・厚生年金の法定17業種に含まれません。一方、法人化した店や任意適用の認可を受けた店では、加入要件を満たすスタッフを社会保険へ加入させる必要があります。さらに、労災保険は社会保険の強制適用外でも従業員1人から手続きが必要です。誰の保険を判断するのかを明確にし、飲食店経営で必要な制度と確認順を整理します。
飲食店経営の社会保険は立場と事業形態で決まる

飲食店の加入関係は「個人事業主本人か、雇用されるスタッフか」「個人事業所か、法人か」の2軸で整理できます。全員が同じ保険とは限らない点に注意が必要です。
個人事業主であるオーナー本人
個人事業所の事業主は通常、その事業所に使用される人ではありません。個人経営の飲食店が任意適用で従業員を健康保険・厚生年金へ加入させても、オーナー本人は原則として加入対象外です。日本年金機構も、個人事業所の事業主は通常、健康保険・厚生年金の被保険者にならないと案内しています。
そのため、オーナー本人は市区町村の国民健康保険などの医療保険と、国民年金を自分で手続きするのが基本です。家族が会社員で、その健康保険の被扶養者要件を満たす場合などは加入先が変わるため、現在の資格から確認します。
飲食店に雇用されるスタッフ
正社員、パート、アルバイトは、勤務先が健康保険・厚生年金の適用事業所であり、本人の労働時間・日数などが加入要件を満たすと被保険者になります。呼び名だけで決めず、雇用契約書や就業規則に記載された条件を確認します。
個人経営の飲食店が現行制度で強制適用外でも、労災保険と雇用保険は別に判定します。「社会保険に入れない店だから、アルバイトの保険手続きは何もない」という理解は正確ではありません。
法人の飲食店で働く役員とスタッフ
株式会社や合同会社などの法人事業所は、常時雇用される人が1人以上いれば業種を問わず健康保険・厚生年金の適用対象です。役員報酬を受ける代表者だけの法人も、原則として加入手続きが必要です。法人は従業員5人未満でも適用対象という点が個人経営との大きな違いです。
法人の店で働くスタッフは、正社員かパートかという名称ではなく、所定労働時間・日数と短時間労働者の要件で加入を判定します。
飲食店オーナー本人が入る健康保険と年金

個人事業主本人は、スタッフ向けの手続きとは別に、自分の医療保険と年金を確保します。全制度の広い比較は個人事業主の社会保険の全体像で確認でき、飲食店オーナーの基本は次のとおりです。
健康保険は現在の資格から確認する
会社員から独立して飲食店を始め、勤務先の健康保険を失った後にほかの被用者保険へ入らない場合は、住所地の市区町村国保が基本です。国民健康保険料は自治体の条例に基づき、世帯の被保険者ごとの所得等に応じる部分と人数等に応じる部分を組み合わせて世帯単位で算定されます。
料率や上限、軽減・減免の扱いは年度や自治体で異なります。全国一律の固定額では比較できないため、住所地の国保窓口で試算を確認します。地域や業種によって加入できる国民健康保険組合がある場合も、資格、家族分、給付、保険料を公式規約で比較する必要があります。
年金は国民年金第1号が基本
日本国内に住む20歳以上60歳未満で、厚生年金に加入せず、厚生年金加入者の扶養にも入らない自営業者は、原則として国民年金の第1号被保険者です。健康保険を市区町村国保から別の国保組合へ替えても、年金が自動的に厚生年金へ変わるわけではありません。
国民年金保険料は毎年度改定されます。固定額を古い記事から転記せず、日本年金機構の個人向け加入案内で最新の手続きと保険料を確認してください。
家族従業者は実態を確認する
家族が店を手伝っている場合も、家族という関係だけで健康保険・厚生年金へ入れるわけではありません。日本年金機構は、就業規則の適用、勤務時間の管理、賃金台帳、専従者給与の扱いなどから、事業主と事実上の使用関係が明らかな場合に家族が被保険者となることがあると示しています。
家族の就労実態と税務上の扱いをそろえて確認し、判断が難しい場合は管轄の年金事務所へ相談します。
個人経営の飲食店は現在の強制適用外

個人事業主(フリーランス)が経営する飲食店に健康保険・厚生年金の加入義務があるかを判断するには、まず飲食サービス業が現在の強制適用業種に含まれるかを確認します。2026年7月時点では、人数だけでは強制適用にならないのが現行制度です。
現行は常時5人以上の法定17業種が対象
個人事業所では、常時5人以上の人を使用する法定17業種が健康保険・厚生年金の強制適用です。製造、建設、運送、物品販売、医療、法律・会計の士業などが含まれますが、飲食サービス業は現行の17業種に含まれていません。
厚生労働省は、宿泊業や飲食サービス業などの個人事業所を現行の業種要件外として明示しています。したがって、個人経営の飲食店がスタッフ5人になれば即日必ず社保という説明は、2026年7月時点の制度とは一致しません。
強制適用外は「保険が不要」という意味ではない
強制適用外というのは、その個人事業所に健康保険・厚生年金を義務的に適用する事業所要件を満たさないという意味です。オーナー本人とスタッフが無保険でよいという意味ではありません。
任意適用を受けていない個人飲食店のスタッフは、勤務先の被用者保険に入らない場合、市区町村国保など別の医療保険と国民年金の資格を確認します。労災保険は労働者を1人でも雇えば成立手続きが必要で、雇用保険はスタッフごとに勤務条件などの加入要件を判定します。
複数業態は実際の事業内容で確認する
店内飲食に加えて食品製造、卸売、小売、宿泊などを同じ事業所で行うケースでは、店名や営業許可の呼び方だけで適用業種を断定できません。複数店舗を運営する場合も、どの単位で事業所を扱い、常時使用する人数をどう数えるかの確認が必要です。
採用拡大や新業態の開始前に、実際の事業内容と勤務実態を示して年金事務所へ照会すると、後からの認識違いを防げます。
任意適用なら加入できる
現行の強制適用外でも、従業員の半数以上の同意を得て事業主が申請し、厚生労働大臣の認可を受ければ、健康保険・厚生年金の一方または両方を任意適用にできます。認可後は、同意した人だけを選ぶのではなく、加入要件を満たす従業員全員が対象です。
手続き、添付書類、適用開始日は日本年金機構の任意適用申請の手続きで確認できます。保険料の事業主負担、給与計算、資格取得・喪失の事務体制も準備が必要です。
正社員・パート・アルバイトの加入判定

スタッフの健康保険・厚生年金は、最初に店が適用事業所かを確認し、次に本人の勤務条件を確認します。事業所要件と本人要件の二段階を逆にしないことが重要です。
先に店が適用事業所か確認する
法人の飲食店、任意適用の認可を受けた個人飲食店などは適用事業所です。一方、任意適用を受けていない現行の個人飲食店は、短時間労働者の労働時間要件だけを満たしても、それだけで健康保険・厚生年金の加入先にはなりません。
チェーン全体の法人と個人店を同じ基準で見たり、「週20時間」という数字だけで判断したりせず、店の適用状況を先に確定します。
正社員と4分の3以上働く人
適用事業所に常用的に使用される正社員は原則として加入対象です。パートやアルバイトでも、1週間の所定労働時間と1か月の所定労働日数が、同じ事業所で同様の業務をする通常の労働者の4分の3以上なら加入対象になります。
飲食店は繁忙日と閑散日でシフトが変わりやすいため、実績の多かった1週間だけではなく、雇用契約書や就業規則上の所定時間・日数を確認します。契約と実働が継続的に異なる場合は、実態を含めて再判定が必要です。
4分の3未満の短時間労働者
4分の3未満でも、2026年7月時点では厚生年金の被保険者数が常時51人以上の企業等に属する適用事業所などで、次の条件をすべて満たす人は加入対象です。
- 週の所定労働時間が20時間以上
- 所定内賃金が月額8.8万円以上
- 2か月を超えて雇用される見込みがある
- 学生ではない(休学中・夜間学生など一定の例外あり)
2025年成立の改正により、賃金要件は2026年10月に撤廃予定です。企業規模要件も2027年10月から段階的に縮小されます。2026年7月時点の現行基準と、採用後に到来する改正後の基準を分けて、厚生労働省の社会保険加入要件を確認してください。
学生アルバイトも労災は対象
短時間労働者の健康保険・厚生年金では学生が原則除外されますが、学生ならすべての保険が不要になるわけではありません。雇用される学生アルバイトも、労災保険は原則として対象です。休学中や夜間・通信制など、健康保険・厚生年金の学生除外に当たらないケースもあります。
学生証だけで一括処理せず、在学形態、所定労働時間、雇用見込みを確認します。
労災は労働者1人から、雇用保険はスタッフごとに判定

労災保険は労働者を1人でも雇えば成立手続きが必要で、雇用保険はスタッフごとに加入要件を判定します。どちらも「労働保険」と呼ばれますが、健康保険・厚生年金とは目的も加入条件も異なります。初めて人を雇うときの詳しい流れは従業員1人を雇うときの社会保険も確認できます。
労災保険は雇用形態を問わず対象
飲食店で労働者を1人でも雇えば、パート・アルバイトを含めて労災保険の成立手続きが必要です。保険料は事業主が負担し、労働者の業務災害と通勤災害に対して給付が行われます。
厨房では包丁による切創、熱湯や油によるやけど、濡れた床での転倒などが起こり得ます。ホールでも配膳中の転倒や通勤途中の事故があります。健康保険の強制適用外でも労災は別に必要です。
個人事業主であるオーナー本人は通常の労災保険の対象ではありませんが、中小事業主等の特別加入制度の対象となる場合があります。加入可否と補償範囲は労働保険事務組合や労働局で確認します。
雇用保険はスタッフごとに判定する
雇用保険は、原則として週の所定労働時間が20時間以上で、31日以上引き続き雇用される見込みがある労働者が対象です。条件を満たすパート・アルバイトも対象となり、事業主はハローワークへ手続きします。
短時間労働者の社会保険と雇用保険は、どちらも週20時間が出てきますが、ほかの条件は同じではありません。制度ごとの判定表を分けると加入漏れを防げます。
業務委託か雇用かを契約名だけで決めない
料理人、配達員、清掃スタッフなどを業務委託として契約していても、勤務時間・場所を店が指定し、仕事を断る自由が乏しく、業務の進め方を継続的に指示するなど、実態が雇用に近い場合があります。
「業務委託契約書があるから労働保険は不要」と先に決めず、指揮監督と働き方の実態を確認します。判断が難しい場合は労働基準監督署、ハローワーク、社会保険労務士などの窓口を使い分けます。
任意適用・法人化・2029年改正を比較

飲食店経営で健康保険・厚生年金を扱う主なルートは、個人事業所のまま任意適用を受ける、法人化する、将来の制度改正に備える、の3つです。優劣ではなく、誰を加入させるかと事務体制で比較します。
個人事業所の任意適用
任意適用では、従業員の半数以上の同意と事業主の申請、厚生労働大臣の認可が必要です。健康保険・厚生年金の一方または両方を申請できますが、認可された制度では加入要件を満たす従業員を対象として扱います。
経営者本人は通常、個人事業所の被保険者にはなりません。従業員の保障充実が主目的であることを踏まえ、保険料の事業主負担、採用面、給与計算、届出事務を検討します。
法人化による強制適用
法人事業所は、常時雇用される人が1人以上いれば原則として強制適用です。役員報酬を受ける代表者も加入対象になり得るため、個人事業所の任意適用とは経営者本人の扱いが異なります。
ただし、法人化は社会保険だけの選択ではありません。登記、税務、役員報酬、経理、資金繰りにも影響します。社会保険料だけで法人化を決めないことが重要です。
2029年10月から業種要件を撤廃
2025年成立の年金制度改正により、2029年10月からは、常時5人以上を使用する個人事業所が原則として業種を問わず適用対象になります。飲食サービス業も新しい業種要件の対象です。
ただし、既存事業所は当分の間対象外という経過措置があります。ここでいう既存事業所は2029年10月時点ですでに存在する事業所です。現在営業している個人飲食店が施行日に一律加入するわけではありません。開業時期、事業承継、組織変更などで扱いが変わり得るため、施行前後の最新案内を厚生労働省の個人事業所向けページで確認します。
3つの選択肢を同じ軸で比較する
- 個人事業所のまま現行制度を使う
オーナー本人は国保・国民年金が基本。従業員の健康保険・厚生年金は強制適用外だが、労働保険は別に手続きする - 任意適用を申請する
従業員半数以上の同意と認可が必要。加入要件を満たす従業員へ被用者保険を用意できるが、オーナー本人は通常対象外 - 法人化する
人数が少なくても原則として適用事業所となり、代表者を含む加入対象者の手続きと事業主負担が発生する
将来の改正を待つだけでなく、採用計画と店舗数、既存スタッフの勤務条件、経営者本人の保障を並べると、検討すべきルートが見えやすくなります。
飲食店の社会保険を確認する手順

最後に、店の現状を制度へ当てはめる順番をまとめます。飲食以外の業種も含む入口は社会保険を職種・業界別に確認するガイドを参照できます。
5つの順番で確認する
- 1.事業形態を確認
個人事業所か法人か、個人なら任意適用の認可を受けているかを確認する - 2.誰の保険かを確認
オーナー本人、家族従業者、正社員、パート・アルバイト、業務委託を分ける - 3.店の適用状況を確認
現行の法定17業種、実際の事業内容、店舗・事業所の単位、常時使用する人数を年金事務所で確認する - 4.スタッフの勤務条件を確認
所定労働時間・日数、雇用期間、学生区分を契約書と実態の両方で確認する - 5.制度別の窓口へ届け出る
健康保険・厚生年金は年金事務所、国保は自治体等、労災は労働基準監督署、雇用保険はハローワークへ確認する
個人経営の飲食店は2026年7月時点で法定17業種外ですが、従業員の保険対応がすべて不要になるわけではありません。オーナー本人の国保・国民年金、スタッフの健康保険・厚生年金、労災・雇用保険を別々に判定します。
任意適用、法人化、2029年改正は、経営者本人と従業員の扱いがそれぞれ異なります。採用や組織変更の前に加入関係を確認することで、手続き漏れと想定外の負担を防ぎやすくなります。
飲食店経営の社会保険は、オーナー本人、従業員、事業形態を分けて確認すると、必要な手続きと相談先が明確になります。
