個人事業主(フリーランス)が従業員1人を雇うときの社会保険|加入義務と手続きを人数別に解説

これまで一人で活動してきた個人事業主(フリーランス)が、初めて従業員を雇うとき、まず気になるのが「社会保険はどうなるのか」という点です。結論から言うと、従業員を1人でも雇えば労働保険は加入義務が生じ、常時5人以上になると健康保険・厚生年金も強制適用になります。同じ「社会保険」でも、従業員の人数と業種によって義務の内容が変わるため、混乱しやすいところです。この記事では、雇う側の個人事業主が従業員に対して負う加入義務を、1人・2人・5人未満・5人以上という人数別に整理し、手続きと期限まで解説します。

従業員を1人雇うと、社会保険ってどうなるんですか?
人数と業種で変わるのじゃ。今日は順番に整理していくぞ

個人事業主が従業員を雇うと社会保険はどうなる?人数別の早見

労働保険と社会保険って、別のものなんですね!
そうじゃ。労働保険は1人、社会保険は5人が目安じゃ

まず、この記事全体の地図として、雇う側の個人事業主が何に加入する義務を負うのかを整理します。ここを押さえると、あとの人数別の話が「1つの流れ」として理解できます。

社会保険と労働保険は別物として分けて考える

「社会保険」という言葉は広い意味と狭い意味で使われますが、雇う側の手続きを整理するには、次の2つに分けて考えるのが近道です。

  • 労働保険
    労災保険と雇用保険のこと。従業員を1人でも雇えば原則として加入義務が生じる
  • 社会保険(狭義)
    健康保険と厚生年金保険のこと。個人事業所では常時5人以上かつ一定業種で強制適用になる

この2つは、加入義務が発生する人数のラインが違います。労働保険は1人、社会保険は5人が大きな目安だと覚えておくと、以降の話が整理しやすくなります。

なお、ここで扱うのはあくまで雇う側が従業員に対して負う義務です。事業主本人が国保・国民年金からどう動けるか、というテーマは論点が別なので、本人の加入については別記事で扱います。

従業員の人数別に見る加入義務の早見

人数ごとに、何に加入義務が生じるかをまとめると次のようになります。自分の状況に近いところから読み進めてください。

  • 従業員1人・2人(5人未満):労災保険・雇用保険は加入義務。健康保険・厚生年金は原則任意(任意適用は可能)
  • 従業員5人以上(強制適用業種):労災・雇用保険に加えて健康保険・厚生年金も強制適用
  • 従業員5人以上(非適用業種):労災・雇用保険は加入義務。健康保険・厚生年金は任意適用

「何人から社会保険(健保・厚年)が義務になるのか」という問いへの答えは、強制適用業種で常時5人以上が基準です。ただし人数だけでなく業種も条件になるので、次の各セクションで具体的に見ていきます。

従業員を1人でも雇ったら労働保険は加入義務

アルバイト1人でも労災に入れないとダメなんですか?
その通りじゃ。労災は1人でも全業種で加入義務なのじゃ

人数にかかわらず最初に関わってくるのが労働保険です。アルバイトを1人雇っただけでも対象になるため、雇い始めのタイミングで必ず確認しておきましょう。

労災保険は従業員1人でも全業種で加入義務

労災保険は、従業員(パート・アルバイト・日雇いを含む)を1人でも雇えば加入義務が生じます。業種を問わず原則すべての事業所が対象で、保険料は全額を事業主が負担します。従業員が2人でも3人でも、この義務は変わりません。

  • 対象は雇用形態を問わず、パート・アルバイトも含めたすべての従業員
  • 保険料は全額事業主負担で、従業員の給与からは天引きしない
  • 業務中や通勤中のケガ・病気に備える制度で、加入は事業主の責任

ただし例外として、農林水産業の一部で常時5人未満を雇う事業は暫定任意適用事業とされ、加入が任意になる場合があります。自分の業種が該当するか不安なときは、労働基準監督署で確認しておくと確実です。

雇用保険は週20時間以上の従業員が対象

雇用保険は、次の条件を満たす従業員を1人でも雇うと加入義務が生じます。

  • 1週間の所定労働時間が20時間以上
  • 継続して31日以上の雇用が見込まれる

この条件を満たす従業員がいれば、雇用形態がパート・アルバイトであっても加入対象です。週20時間以上・31日以上の見込みが判定の軸になります。保険料は事業主と従業員の双方が負担し、失業給付や育児休業給付などの財源になります。学生は原則対象外など細かな例外もあるため、迷ったらハローワークで確認しましょう。

従業員が常時5人以上になると社会保険が強制適用

5人以上だと健康保険や厚生年金も必要なんですか?
常時5人以上で法定17業種なら強制適用になるのじゃ

労働保険とは別に、健康保険・厚生年金保険(狭義の社会保険)は、従業員の人数が増えると強制適用に切り替わります。ここが「5人の壁」と呼ばれるラインです。

強制適用は常時5人以上かつ法定17業種

個人事業所が健康保険・厚生年金の強制適用事業所になるのは、常時5人以上の従業員を使用し、かつ法律で定める17業種(法定17業種)に当てはまる場合です。製造業・建設業・運送業・士業などが強制適用業種にあたります。

  • 「常時5人以上」は、常態として使用している従業員の数で判断する
  • 事業主本人は従業員数に含めない
  • 農業・林業・漁業・飲食業・宿泊業・理美容業などは、現行では非適用業種にあたる

「常時5人」は一時的な繁忙期の増員ではなく、恒常的に5人以上を使用している状態を指します。パートやアルバイトも、後述する加入対象の基準を満たす人は人数に含めて考えます。

加入対象になる従業員の範囲

強制適用事業所になったとき、実際に健康保険・厚生年金に加入させる従業員の範囲も押さえておきましょう。正社員だけでなく、一定以上働くパート・アルバイトも対象です。

  • 正社員(フルタイムの従業員)は原則として全員が加入対象
  • パート・アルバイトは、1週間の所定労働時間と1か月の所定労働日数が正社員の4分の3以上なら加入対象
  • 4分の3未満でも、特定の要件を満たす短時間労働者は対象になる場合がある

短時間で働く人がどこから社会保険に入るかという「壁」の話は、雇われる従業員側の視点で別記事にまとめています。雇う側としては、まず正社員の4分の3以上という基準を目安に対象者を把握するとよいでしょう。

従業員5人未満や非適用業種は任意適用で加入できる

5人未満でも社会保険に入れる方法があるんですか?
任意適用じゃ。従業員の半数以上の同意で加入できるぞ

従業員が5人未満の場合や、5人以上でも非適用業種の場合は、健康保険・厚生年金は強制ではありません。ただし「入れない」わけではなく、任意適用という選択肢があります。

任意適用事業所になる条件と手続き

強制適用にあたらない個人事業所でも、一定の手続きを踏めば健康保険・厚生年金に加入できます。これを任意適用事業所と呼びます。

  • 従業員の同意
    働いている従業員の2分の1以上が加入に同意していること
  • 事業主の申請
    事業主が年金事務所へ任意適用の申請を行い、厚生労働大臣の認可を受ける
  • 全員が加入対象
    認可されると、加入対象となる従業員は本人の希望にかかわらず被保険者になる

一度任意適用事業所になると、以後は強制適用事業所とほぼ同じ扱いになります。従業員の過半数が同意していることが前提になる点に注意してください。

任意適用のメリットと注意点

任意適用にはメリットと負担の両面があります。従業員の待遇と事業のコストを見比べて判断しましょう。

  • メリット:従業員が厚生年金や協会けんぽの手厚い保障を受けられ、採用・定着面で有利になりやすい
  • 注意点:保険料は労使折半で、事業主にも継続的な保険料負担と事務手続きが発生する
  • 注意点:任意脱退には従業員の4分の3以上の同意と認可が必要で、簡単には抜けられない

事業主の負担増と従業員のメリットを天秤にかけ、将来の人員計画も踏まえて決めるのがおすすめです。判断に迷う場合は、社会保険労務士や年金事務所に相談すると具体的な試算がしやすくなります。

家族従業員(専従者)を雇うときの社会保険の扱い

家族を従業員として雇った場合も同じ扱いなんですか?
同居の家族は労災・雇用保険は原則対象外なのじゃ

個人事業では、配偶者や親などの家族を従業員として雇うケースも多くあります。家族従業員は一般の従業員と扱いが違う部分があるので、分けて理解しておきましょう。

同居の親族は労災・雇用保険の対象外が原則

事業主と同居している親族(家族従業員)は、原則として労災保険・雇用保険の対象になりません。これは、同居の親族が事業主と生計を一にしており、一般の労働者とは立場が異なると考えられているためです。

  • 同居の親族は、原則として労災保険・雇用保険の「労働者」に該当しない
  • ただし、他の一般従業員と同様の働き方をし、賃金や指揮命令の実態が労働者と同じであれば対象になる場合がある
  • 別居している親族は、通常の従業員と同じ扱いになる

つまり、同居家族は原則対象外だが実態次第で例外があるということです。判断が難しいケースは労働基準監督署やハローワークで実態を伝えて確認しましょう。

健康保険・厚生年金は使用関係で判断する

一方、健康保険・厚生年金については、家族従業員でも事業主との間に使用関係が認められれば被保険者になります。青色事業専従者であっても、実際に働いて賃金を受けている使用関係があれば、加入対象になり得ます。

  • 事業所が強制適用または任意適用で、家族従業員に使用関係があれば健保・厚年の対象になる
  • 使用関係があるかは、労働の実態・賃金の支払い・勤務時間などで総合的に判断される
  • 労働保険と社会保険で家族従業員の扱いが分かれる点に注意が必要

労働保険と社会保険で結論が変わることがあるため、家族を雇う場合は「どの保険で対象になるのか」を1つずつ確認するのが安全です。

従業員を雇ったときの社会保険・労働保険の加入手続きと期限

加入の手続きはどこに出せばいいんでしょう?
労基署・ハローワーク・年金事務所じゃ。期限も短いぞ

最後に、実際に加入義務が生じたときの手続きを整理します。届出先が保険ごとに分かれ、期限も短いものがあるため、雇い入れが決まったら早めに動きましょう。

労働保険・雇用保険の手続きと期限

労災保険と雇用保険の手続きは、提出先も期限も異なります。まとめて把握しておくと漏れを防げます。

  • 保険関係成立届
    労働基準監督署へ。保険関係が成立した日の翌日から10日以内に提出する
  • 概算保険料申告書
    労働基準監督署(または金融機関)へ。保険関係成立日の翌日から50日以内に申告・納付する
  • 雇用保険適用事業所設置届
    ハローワークへ。設置した日の翌日から10日以内に提出する
  • 雇用保険被保険者資格取得届
    ハローワークへ。資格取得日の属する月の翌月10日までに提出する

労災保険は原則として全業種で1人目の雇用から手続きが必要です。雇用保険は前述の加入条件を満たす従業員がいる場合に届け出ます。

社会保険(健保・厚年)の手続きと未加入リスク

健康保険・厚生年金の加入義務が生じたときは、年金事務所への手続きが必要です。期限が5日以内と短いので、特に注意しましょう。

  • 新規適用届
    年金事務所へ。強制適用・任意適用に該当した事実の発生から5日以内に提出する
  • 被保険者資格取得届
    年金事務所へ。従業員を加入させる事実の発生から5日以内に提出する
  • 被扶養者(異動)届
    加入する従業員に扶養家族がいる場合に、あわせて提出する

加入義務があるのに手続きを怠ると、後から未加入が発覚した際に最大2年さかのぼって保険料を請求されたり、罰則の対象になったりする可能性があります。加入対象かどうかの判断に迷う場合は、放置せず年金事務所や労働基準監督署、社会保険労務士に確認しておくことが大切です。

まとめ

労働保険は1人・社会保険は5人で覚えればいいんですね!
その軸を押さえれば大丈夫じゃ。あとは期限内の手続きじゃ

個人事業主(フリーランス)が従業員を雇うと、人数と業種に応じて社会保険・労働保険の加入義務が段階的に生じます。まず従業員1人でも労働保険は加入義務、常時5人以上かつ法定17業種になると健康保険・厚生年金も強制適用、というのが基本の流れです。

  • 1人でも労働保険
    労災は1人でも全業種で義務、雇用保険は週20時間以上の従業員が対象
  • 5人以上で社会保険
    常時5人以上かつ法定17業種で健保・厚年が強制適用、5人未満や非適用業種は任意適用
  • 手続きは期限に注意
    労基署・ハローワーク・年金事務所へ、5〜50日以内の届出が必要

家族従業員の扱いや任意適用の判断など、迷いやすいポイントもありますが、「労働保険は1人・社会保険は5人」という軸を持っておけば整理できます。自分の事業所がどの段階に当てはまるかを確認し、加入義務が生じたら期限内に手続きを進めましょう。判断に迷うときは、年金事務所や労働基準監督署、社会保険労務士に早めに相談するのが確実です。


従業員を雇うことは、事業を次のステージへ進める大きな一歩です。社会保険や労働保険の手続きは複雑に見えますが、「労働保険は1人から・社会保険は常時5人から」という軸を押さえておけば、自分の事業所が今どの段階にあるかを落ち着いて判断できます。加入義務が生じたら期限内に届け出て、従業員が安心して働ける環境を整えていきましょう。

これで雇うときの社会保険の全体像はつかめたのじゃ
従業員数ごとの加入義務を整理しておくと、迷わないんですね!
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