確定申告の帳簿づけを進めていると、多くの個人事業主(フリーランス)が「毎月払っている国民健康保険料や国民年金保険料は、経費に入れていいの?」と手が止まります。金額が大きいだけに、経費にできるかどうかで結果が変わりそうに感じるからです。結論から言うと、本人分の社会保険料は経費にできません。ただし、それは「帳簿でどう書くか」という会計処理の話であって、確定申告では別のしくみでしっかり差し引けます。この記事では、社会保険料の勘定科目と仕訳を中心に、事業用口座で払ったときの書き方、従業員や家族がいる場合の扱い、控除との違いまで、記帳の実務に絞ってやさしく整理します。
個人事業主(フリーランス)本人の社会保険料は経費にできない

まずは結論と、その理由をはっきりさせておきましょう。ここを押さえれば、あとの仕訳で迷うことがぐっと減ります。
なぜ経費にならないのか
個人事業主(フリーランス)本人が払う社会保険料は、事業の必要経費にはなりません。経費として認められるのは「事業を行うために直接必要な支出」で、社会保険料は事業のためではなく、事業主自身の生活を支えるための個人的な支出(家事費)とみなされるためです。
売上を上げるために使ったお金ではないので、たとえ事業がうまくいっていても社会保険料は経費に入れられません。ここは自宅家賃や通信費のように「事業とプライベートで分ける」余地がなく、全額が経費の対象外と考えるのが原則です。
経費にできない社会保険料の一覧
個人事業主(フリーランス)が払う社会保険料のうち、本人にかかる次のものはいずれも経費になりません。名前は違っても「本人の社会保険料」であれば同じ扱いです。
- 国民健康保険料(国民健康保険組合の保険料も同様)
- 国民年金保険料
- 国民年金基金の掛金
- 介護保険料(40〜64歳分は国保に上乗せ、65歳以上は別途)
- 労災保険の特別加入(一人親方など)の保険料
これらはすべて、経費ではなく後述の社会保険料控除や小規模企業共済等掛金控除といった「所得控除」で差し引くしくみになっています。経費にならない=申告で一切引けない、ではない点だけ先に覚えておいてください。
社会保険料の勘定科目と仕訳(払い方で変わる)

ここが記帳のいちばんの疑問どころです。社会保険料の勘定科目と仕訳は、どのお金から払ったかで変わります。難しく見えますが、パターンは2つだけです。
プライベートのお金で払ったら仕訳は不要
生活用(プライベート)の口座や現金から社会保険料を払った場合、帳簿に記帳する必要はありません。事業のお金がまったく動いていないため、事業の帳簿に載せる取引が発生しないからです。
口座振替やクレジットカードを生活用の口座に紐づけているなら、社会保険料はそのまま何も仕訳しなくて構いません。事業用と生活用の口座を分けている人にとっては、これがいちばんシンプルな扱いです。
事業用口座から払ったら「事業主貸」で記帳
事業用の口座や現金から社会保険料を払った場合は、事業主貸という勘定科目で仕訳します。事業主貸は「事業のお金を事業主が個人的な用途に使った」ことを表す科目で、経費ではありません。
- 借方:事業主貸 ○○円 / 貸方:普通預金(または現金)○○円
- 摘要:国民健康保険料(○月分)などと記載しておく
たとえば事業用口座から国民年金保険料17,510円を払ったら、「事業主貸 17,510/普通預金 17,510」と記帳します。会計ソフトでも勘定科目に「事業主貸」を選ぶだけで、経費には集計されない形で正しく処理されます。
社会保険料に家事按分は使わない
自宅兼事務所の家賃や車の費用は、事業分とプライベート分に分ける「家事按分」で一部を経費にできます。しかし社会保険料は、家事按分の対象にはなりません。事業に必要な支出という前提がそもそもないため、割合を掛けて一部を経費にすることはできないのです。
「保険料の何割かは事業分として落とせないか」と考えたくなりますが、社会保険料は全額が事業主貸(またはプライベート払いで仕訳なし)です。按分を使うのは、あくまで事業と生活の両方で使う費用に限られます。
従業員・専従者がいる場合の社会保険料の扱い

ここまでは事業主ひとりのケースです。従業員や家族(専従者)がいる場合は、立場によって勘定科目が変わるため、分けて考えます。
従業員の社会保険料(事業主負担分)は「法定福利費」で経費になる
従業員を雇い、健康保険・厚生年金や労働保険に加入している場合、その保険料のうち事業主が負担する分は経費にできます。このとき使う勘定科目が法定福利費です。事業を営むうえで法律上負担が義務づけられた費用なので、本人分の社会保険料とは扱いがまったく異なります。
- 事業主負担分
健康保険・厚生年金・労働保険の会社負担分は「法定福利費」で経費計上できる - 従業員本人負担分
給与から天引きして預かる分は「預り金」で処理し、納付時に相殺する
同じ「社会保険料」でも、事業主本人の分は経費にできず、従業員のために事業主が負担する分は法定福利費として経費になる、という違いを押さえておきましょう。
青色事業専従者(家族)本人の社会保険料は経費にできない
配偶者や親族に手伝ってもらい、青色事業専従者として給与を払っている場合でも、専従者本人の国保・国民年金は経費になりません。専従者も個人としては国民健康保険・国民年金の加入者であり、その保険料は本人(または生計を一にする家族)の社会保険料控除で扱うものだからです。
専従者給与そのものは要件を満たせば経費にできますが、専従者が払う社会保険料まで法定福利費で落とせるわけではありません。ここは混同しやすいので、給与は経費・本人の社会保険料は控除と切り分けて覚えてください。
経費にならなくても社会保険料控除で取り戻せる

「経費にできない」と聞くと損した気分になりますが、心配はいりません。社会保険料は経費の代わりに、確定申告で社会保険料控除として全額を所得から差し引けます。
経費と所得控除はまったく別のしくみ
経費と所得控除は、どちらも税金を減らす方向に働きますが、差し引く場所が違います。経費は売上から引いて「事業の利益(所得)」を計算する段階、社会保険料控除はその所得から引いて「税金の対象額」を計算する段階で使います。
- 経費
売上から差し引いて事業所得を計算する。社会保険料は含められない - 社会保険料控除
事業所得などの合計から差し引く所得控除。その年に払った社会保険料は全額が対象
つまり社会保険料は、帳簿では経費に入れず、確定申告書の社会保険料控除の欄に1年間の支払額を記入して差し引きます。帳簿と申告書で「二重に落とす」ことはできないので、経費に入れず控除だけで処理するのが正解です。控除の詳しい書き方は、別記事「社会保険料控除」で解説しています。
生計を一にする家族の社会保険料は払った人が控除できる
社会保険料控除には、生計を一にする家族の分も対象になるという特徴があります。配偶者や子ども、専従者である家族の国民年金・国民健康保険料を、事業主が実際に支払っていれば、支払った事業主の社会保険料控除に含められます。
これは経費ではなく控除の話ですが、家族分をまとめて払っている世帯では見落とすと損をします。誰の口座から払ったかではなく「実際に負担して払った人」で判断するため、家族の分を代わりに納めているなら、その分も忘れずに申告しましょう。
間違えやすい保険・掛金の経費と控除の切り分け

社会保険料の周辺には、経費になるものと控除になるものが入り混じっています。混同しやすい代表例を整理しておきましょう。
なお、自分の社会保険料そのものとは別に、社保加入サービスを利用して社会保険に加入している場合に払う会費(利用料)は「支払手数料」などで経費にできます。会費の勘定科目・仕訳や確定申告での書き分けは、社保加入サービスの会費は経費にできる?で詳しく解説しています。
生命保険・地震保険は「控除」、事業用の損害保険は「経費」
生命保険料や地震保険料は、社会保険料と同じく経費ではなく生命保険料控除・地震保険料控除で扱います。一方で、事業のために掛ける保険は経費にできるものがあります。
- 経費になる保険
店舗の火災保険、事業用車の自動車保険、賠償責任保険など、事業に直接必要な損害保険料 - 控除で扱う保険
個人の生命保険・医療保険・個人年金・地震保険などは経費でなく各種保険料控除
判断の軸は「事業を守るための保険か、個人・家族を守るための保険か」です。自宅兼事務所の火災保険のように事業とプライベートが混ざる場合は、事業使用分だけを家事按分して経費にします。
iDeCo・小規模企業共済・労災の組合費の扱い
老後の備えとしてよく使われる掛金も、多くは経費ではなく控除です。ただし一部、経費にできる周辺費用もあるので分けて理解しておきましょう。
- iDeCo(個人型確定拠出年金)の掛金は経費ではなく「小規模企業共済等掛金控除」
- 小規模企業共済の掛金も同じく「小規模企業共済等掛金控除」で全額が所得控除
- 労災の特別加入の保険料本体は経費にできないが、加入団体の入会金・組合費・事務手数料は「諸会費」「雑費」などで経費計上できる場合がある
節税に効くのは事実ですが、これらは帳簿上の経費ではなく申告書の控除で差し引くのが基本です。「経費にできる」と誤解して帳簿に入れないよう注意してください。
社会保険料を記帳するときの手順と注意点

最後に、実際に帳簿づけをするときの流れと、つまずきやすいポイントをまとめます。手順どおりに進めれば、社会保険料の記帳で迷うことはほぼなくなります。
ステップで見る記帳の流れ
社会保険料が出てきたら、次の順番で判断すれば正しく処理できます。難しく考えず、まず「どのお金から払ったか」を確認するのがコツです。
- 1. 誰の社会保険料かを確認
本人・家族(専従者)なら経費不可、雇っている従業員の事業主負担分なら法定福利費 - 2. どの口座から払ったかを確認
本人分は、事業用口座なら「事業主貸」、生活用口座なら仕訳不要 - 3. 申告書で控除する
本人・家族分は、年間の支払額を社会保険料控除としてまとめて記入する
この3ステップで、帳簿と申告書の役割分担がはっきりします。会計ソフトを使う場合も、本人分は勘定科目で「事業主貸」を選ぶだけなので、慣れれば数十秒で終わります。
迷ったときのチェックポイント
処理に迷ったら、次の点を確認すると間違いを防げます。とくに独立初年度は勘違いしやすいので、一度目を通しておくと安心です。
- 本人の社会保険料を「経費」や「法定福利費」で計上していないか(正しくは事業主貸か仕訳なし)
- 帳簿で経費にしていないのに、申告書の社会保険料控除を書き忘れていないか
- 家族の社会保険料を実際に払っているのに、控除に含め忘れていないか
- 個別の判断に迷うときは、自治体・税務署や税理士に確認する
社会保険料は金額が大きいぶん、扱いを間違えると税額に影響します。判断に自信が持てないときは、無理に自己判断せず、税務署の相談窓口や税理士に確認したうえで処理しましょう。
まとめ

個人事業主(フリーランス)本人の社会保険料は経費にはできません。国民健康保険料や国民年金保険料などは事業の必要経費ではなく個人の支出とされるため、事業用口座から払ったときは「事業主貸」、生活用口座から払ったときは仕訳不要、というのが記帳の基本です。
- 本人分は経費にしない
事業用口座なら「事業主貸」、生活用口座なら仕訳不要。家事按分も使わない - 従業員分は法定福利費
雇っている従業員の事業主負担分だけは経費にできる - 申告書では控除する
本人・生計を一にする家族の社会保険料は、社会保険料控除で全額を所得から差し引く
大切なのは、帳簿では経費にせず、申告書の控除で差し引くという役割分担を押さえることです。経費にできないからといって損をするわけではありません。勘定科目の使い分けと控除のしくみを正しく理解して、社会保険料を迷わず処理できるようにしておきましょう。
社会保険料が経費にできないと知ると身構えてしまいますが、大事なのは帳簿と申告書で役割を分けることだけです。本人分は「事業主貸」または仕訳なしにして、払った保険料は社会保険料控除でしっかり差し引く。この切り分けさえ押さえれば、個人事業主(フリーランス)の記帳で社会保険料に迷うことはなくなります。
